知っているようで知らない、視力のあれこれ
前回の記事で、『医者とあなたでは「視力」の意味が違う』というお話について書きました。
医者と患者自身では「視力」に対する認識でずれているところがあるため、いざ治療となるとすれ違ってしまい、
「思った通りにいかなかった」というケースも多く見られているのです。
だからこそここでは、手術や診療のときに話す「視力・乱視・近視・遠視・老眼」という言葉について理解していただきたいのです。
今回は知っているようで知らない「乱視・近視・遠視・老眼」についてお話ししていきます。

それぞれの特徴
●乱視って何?
乱視は目の玉のゆがみです。
目の玉はきれいな球の形をしているようでも人によってゆがみが必ず存在します。
そのゆがみによって見るものもゆがんで見えるのです。
絶対に人間には乱視があります。
よく「私は乱視がある」「私は乱視がない」という言い方をします。
これは乱視が強くてメガネなどで補正しなければいけないほどに なった場合に医者が「乱視があります」といい、
それほどでもない場合は「乱視がありません」というのでこのようになっていますが、乱視は必ずあるものです。
白内障によって乱視がひどくなってくることもあります。
また年齢によって乱視が ひどくなってくることもあります。
残念ながら白内障手術をしても乱視をゼロにすることはできません。
乱視というのは残ると考えてください。

●近視って何?
近視とは「近くが見えるけど遠くが見えないこと」です。
だから近視のことはなんとなくわかっていると思います。
ただ問題となるのは白内障によって近視になっていく人がいるということです。
実は白内障のタイプによってはどんどん近視が進んでしまうことがあります。
そして近視の度数によってどのくらい手元が見えるかが決まってきます。
軽い近視だと1mくらいがばっちり見えます。
少しずつ進むと、それが50㎝となり30㎝となるわけです。
近視というのはもともと近視の人には慣れている世界です。
また老眼があっても近視の人の場合は「手元はメガネをはずせば見える」という利点があるので便利です。
だからこそ白内障手術後も近視にするという人や医者もいます。
そうするとたいていは手術をしてみて遠くを見て「あれ見えない」と不安になってしまいます。
けれども近視はあくまで遠くはメガネで見るもの、近くがメガネなしであるということを知っておきましょう。

●遠視って何?
一方、近視の逆の遠視は遠くが見えるかというとそうともかぎりません。
遠視が強いと遠くも見えず近くも見えないということになってしまうのです。
遠視というほどではない、いい状態は正視といいます。
若いときはそれを目や脳でうまく調整できていたのですが、
徐々にその調整がきかなくなってきて目がつらくなる、頭が痛くなるということもあります。
遠視の場合、昔はよく見えていたという思いがあるために「私は目がいいほうだから」とついつい思ってしまいます。
けれども、もともと目がよかった人ほど遠視であることも多く、目が疲れやすくなることを知 っておきたいものです。

●老眼って何?
老眼は年齢とともに起きてくるものです。
実は老眼と白内障は切っても切り離せないものです。
白内障になると老眼が進んでしまうからです。
老眼とはどういうものでしょうか?
「近くが見にくい」。半分正解です。
遠くが見える人は老眼になると近くが見にくくなります。
一方、近くが見える人はメガネなしでも近くが見えます。
老眼とはピントを合わせる力が弱くなることです。

遠視や正視の人の場合は、子供のころはメガネなしで遠くが見えていました。
手元もメガネなしで見えていました。
このように遠くから近くに目を移すときに目の玉は自動的にピントを合わせてくれます。
その機能が落ちてくると最初は30㎝でピントが合いにくくなります。
次に40㎝、50㎝となり、しまいにはかなり離さないと見えなくなり老眼鏡を使うのです。
近視の人の場合は、子供のころは近視のメガネをかければ同じように遠くが見えていました。
手元もメガネなしで見えていました。
この場合も徐々にピントが合いにくくなってきてその距離が開いてくるのです。
人間はどうやってピントを合わせているのでしょうか?
目の筋肉(毛様体筋)を使って目のレンズ(水晶体)の厚みを変えています。
厚みが変わるとピントが合う位置が変わってくるのです。
以前お話ししたように白内障は水晶体が白くなり硬くなるものです。
ですから白内障によって老眼が進んでしまいます。
また白内障手術のときに入れるレンズもこの老眼に関連します。
残念ながら目に入れるレンズに軟らかさはありません。
自動的にピントを合わせる能力はないのです。
だからしっかりと老眼は残ってしまいます。
最近は最新治療として遠近両用のレンズがありますが、
これも自動的にピントを合わせるレンズではないため、性能は落ちてしまいます。
まとめ
乱視・近視・遠視・老眼と、4つの特徴を見てきました。
それぞれに違いがあり、対処法や治療法も異なります。
これだけ違いがあると、単に「視力を上げる」といってもさまざまな解釈ができてしまうので、
医者と患者とのすれ違いが起こりうるのです。
もちろん専門知識は医者にお任せして構いません。
しかしこういった知識をつけておけば、治療が思い通りにいく可能性が上がります。
自分の身体は自分がよく知っていますよね。
これからも健康な身体を守るために、知識を深めることに目を向けてもらえたらな、と思っています。